先日、ちょっとおもしろいテレビ番組がありました。
 NHKスペシャル マネー・ワールド~資本主義の未来~ 第2集「仕事がなくなる!?」

 ちょっとおもしろい、そして、けっこうほろ苦い。そんな内容でした。その中で、孫正義氏が「安全装置としてのベーシックインカムに賛成」とおっしゃいました。安全装置とは、ロボットやAIに思いがけず仕事を奪われてしまった人などが困らないように、という意味だと思われます。そして「その財源を賄えるだけの豊かな経済を維持しなければならない」と言いました。もうひとりのゲストの新井紀子氏から「法人税を引き上げることも賛成なんですか?」と厳しく追及された上での発言でした。

 私はこれまでベーシックインカムに賛成でした。年金制度、雇用保険、生活保護、障害者への対応などをひとくくりにし、ベーシックインカムという大きな枠で対応することで、先行きの不安などを軽減させればおカネが回るだろう、といったシンプルな発想で賛同していました。

 ただし、これをやるには現在の縦割り行政では不可能で、国税庁、厚労省、地方自治体など大幅なリストラになる可能性もある点は否めず、その点だけでも官僚や公務員から強い反発があり得ると思っています。とはいえ、いずれ、公務員の手厚い年金などの所得補填制度があまりにも民間と乖離することで、市民の中に強い不満が募り、公務員との戦争が始まるのではないかと危惧するほどなのですが……。

そもそもベーシックインカムは?

 いろいろな貧困対策の中で、近代社会で大きく影響を与えた発言として、経済学者ミルトン・フリードマン『資本主義と自由(Capitalism and Freedom)』(1962)の中で提唱された「負の所得税」という考え方があります。これは所得のある人は正の所得税、つまり所得税を払う。そして困っている人は負の所得税、つまり国家からなにかしらの援助を受け取る考えです。実際に実験的に実施されたこともあるようですが、やはり一部の官僚や公務員が不要になっていくことには変わりがないため実現は困難と言われています。

 そして、1986年に、BIEN(ベーシックインカム地球ネットワーク)が設立されたことで、さらに世界中で活発になっていったと考えられます。この組織では、ベーシックインカムの定義を公表しています。英語ですが……。

 A basic income is a periodic cash payment unconditionally delivered to all on an individual basis, without means-test or work requirement.

 That is, basic income has the following five characeristics:

1 Periodic: it is paid at regular intervals (for example every month), not as a one-off grant.
2 Cash payment: it is paid in an appropriate medium of exchange, allowing those who receive it to decide what they spend it on. It is not,therefore, paid either in kind (such as food or services) or in vouchers dedicated to a specific use.
3 Individual: it is paid on an individual basis—and not, for instance, to households.
4 Universal: it is paid to all, without means test.
5 Unconditional: it is paid without a requirement to work or to demonstrate willingness-to-work.

 簡単に表現すれば、ベーシックインカムは、次のようなものです。これは上記英文の正確な翻訳ではなく、私が勝手にまとめています。
1 定期的に支払われる。つまり、不定期だったり手続きが毎回必要といったものではなく。
2 現金で支給する。つまり、クーポンとかポイントとかクレジットではなく。
3 個人単位で支払われる。世帯の条件とか年齢とか地域などに関係なく、対象となるのは個人。
4 万人に支払われる。制限、条件などで差別されずに誰もが受け取ることができるのが前提。
5 無条件に支払われる。現在・過去の労働状況であるとか、労働意思、あるいは前科などにも関係なく支払われる。

 なんだかハッピーな制度ですよね!

資本家に有利に働く可能性はないか?

 一方、私はちょっと心配になる部分もあります。もちろん、公務員とそうではない人との間による戦争をしなければならない(戦争は不穏当ですが、それほどの困難な闘争というかケンカというか……)、といった危惧のほかに、です。

 ベーシックインカムを一定の割合で提供する国家は、それだけの富みを国として生み出す(または受け取る)状態にある。簡単にいえば、産油国は原油を売って利益を得る。その分配としてベーシックインカムを考える、といったことがあり得るでしょう。日本の場合、自動車を売ってベーシックインカムを得る、と考えることも可能です。

 そのとき、「みなさんのベーシックインカムを維持するために、こうしなければなりません!」と資本家が言ったとき、その内容に賛同するしかなくなる可能性はないでしょうか。

 全体主義的な発想に近いものを感じます。つまり「われわれの生活を守るためには、こういう戦いをしなければならない」とか「これぐらいの犠牲は当然だ」とか「逆らうやつは非国民だ」といった方向にいきやすくなる。そして経済が悪化していくときに、しだいに支払われる金額が減っていくベーシックインカムに「いまは我慢するしかない」となっていくのでしょうか。それとも「一億玉砕」でしょうか?(どうも不穏当な言葉のチョイスで申し訳ありません)。

 いずれにせよ、国民の生活がきわめてわかりやすい人質状態になりやすい。

 そのため、ベーシックインカムを維持するためにがんばっている資本家は、どんどんわがままになっていく可能性も否めません。「おれたちが稼いだカネで、おまえらは楽しくやってんだから、ちょっとぐらい月ロケットに彼女と乗ってもいいだろう」的な(どうも不穏当な言葉のチョイスで申し訳ありません)。

 これは、ベーシックインカムを導入するときに、その財源となる国の稼ぎを支えている資本家たち(日本は資本主義ですから、必ず資本家が存在します)を、固定化させてしまう可能性がないでしょうか。

 資本主義経済であり、同時に自由主義経済であった時代は終わりを告げ、自由はなくなり(あるいは極小に制限され)、資本は残る。いわば王族による統治に似た世界になってしまう可能性もあるのです。このとき、ベーシックインカムで生活する私たちは、速やかに悪化した資本家を退場させることができるでしょうか。

 現在も王国はあり、王族はいますが、それを追放することの困難さ、とんでもなく多くの犠牲を考えると、とても難しいことでしょう。

 資本家が劣化することはよく知られていると同時に、「○○家」などといって、何百年もその栄華を綿々と形を変えながらも享受している一握りの人たちが、世界には存在しています。その支配を完成させるのに、ベーシックインカムは好都合なのではないかなどと考えてしまいます。

 信じるか信じないかは、あなたしだい……。

 ともかく、資本の固定化は、新たな財を生み出すチャンスを減らしますので、いずれベーシックインカムは行き詰まってしまいます。ですから、もしベーシックインカムを導入するなら、資本の流動性を確保しながら、無条件で支払い続けるシステムを考案しなければなりません。それは画期的かもしれませんが、実績もなく信用も低いので、誰も賛同しない可能性が高いですよね。それを説得するのが政治ですが、その政治はすでに資本家と公務員の板挟みというか、なんだか使徒のような存在に成り下がっているのが国際的にも先進国に見られる現状です。

 結局は、支配階級(エスタブリッシュメント)による経済支配と政治支配に、どう国民は立ち向かうか、といったなんだか革命的な面倒くさい闘争に巻き込まれそうな予感さえします。

 面倒くさいことはしたくないから、ベーシックインカムがいいと思ったのに!

 ただのランチいはない!

 まあ、そういうことですが(トレードオフの話)。

 一方、いま(2018年10月)、東京オリンピックのボランティアがなかなか集まらないよねー、といった話を耳にします。「ただ働きかよ!」となってしまう。それは東京オリンピックはひとつのお祭りでみんなで盛り上げるべきものであると同時に、莫大な放送権料を主な収入とした完全な利益構造になっていることを考えたときに、「ただでさえ収奪された上に、ただ働きかよ!」となりやすくなるのです。

 ベーシックインカムが実現していれば、東京オリンピックは暇つぶしに最適ですので、そこまで目くじらを立てる人は減るでしょう。ローマ帝国みたいに、私たちは白い服を着て格闘技を観戦するのでしょうか。そんな時代が来るのでしょうか?

(とくに結論はありません)

参考になる本


 持っていても全部読んだ人は少ないとは思いますが、これがそれです。


 とても共感を得ているベーシックインカムの入門書。この本では、主に人間がロボットやAIに隷属する労働者になることを問題にしています。


 将来の日本がどうなっているか。数字から探っていくので説得力があるし、知ったらすぐ誰かに話したくなる。


 社会保障としてのベーシックインカムを専門家がわかりやすく教えてくれます。まさに入門書。ただし2009年の本ですから、その後に起きている出来事はカバーされておりません。

 

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ますもと・てつろう

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「かきっと!」の編集長です。記事もいろいろ書いています。

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