ノベルジャム NovelJam 2018とは?

「NovelJam 2018」は、「ゼロから小説を書き上げ編集・校正して表紙を付け「本」にして販売までを行う『短期集中型の作品制作・販売企画』」のことです。日本独立作家同盟によって2018年2月10日から12日まで開催され、16の作品がこのわずか3日の間に執筆され、編集され、表紙をつけた本として刊行されました。
 すでに2回目となったこの催しですが、1回目と大きく違う点はいくつかあるのですが、たとえば作家、編集者、デザイナーでチームを組むにあたって会場でチーム編成が決まる点、そして3日の会期が終わったあとに「NobelJam2018グランプリ」(3月26日開催)というイベントを設けた点です。最終日に審査によって各賞が決まっているものの、その後のプロモーション、販売実績などを加味したアワードを設けたことです。

 なお今回のお題は「平成」でした。

 作品の購入はこちらから、できます。まとめて全作品購入もできます。全作品を1冊にまとめた合本もあります。

出版創作イベント「NovelJam 2018」全作品』 NovelJam運営事務局著

以下、感想と各賞を順不同でご紹介します。※はNovelJam 2018最終日に発表された賞です。

『味噌汁とパン・オ・ショコラ』※内藤みか賞

味噌汁とパン・オ・ショコラ』 渡鳥 右子(著) 谷口 恵子(編) w.okada(デザイン)著

 軽快なテンポに乗って突き進む恋話に微笑む。通常こうした作品で対立する登場人物は、その人の現在と未来であったりする。正反対のように見えても人間のすることはそれほどかけ離れているわけでない。主人公はある意味、未来からやってきた自分に押されて自分の行くべき道を歩んでいくのかもしれない、なんてことを勝手に想像してしまった。読後感○

 

『怪獣アドレッセント』※海猫沢めろん賞

怪獣アドレッセント』 腐ってもみかん(著) 和良拓馬(編) 藤沢チヒロ(デザイン)著

 ですよねえって感じの作品はいかにも「いま」な雰囲気を醸し出す。怪獣映画で私も育ちましたがそれは『パシフィック・リム』とはかなり違う。だけどいまの怪獣はいまの時代のもの。この作品から感じる「いま」は楽しめる。私はカップヌードルCM『アオハル編』の最終回を見てしまっている以上、この作品と比較する必要はまったくないのだが、ついなんとなく既視感に捕らわれてしまった。読後感○

 

『DIYベイビー』※米光一成賞

DIYベイビー』 山田しいた(著) 小野寺ひかり(編) 山家由希(デザイン)著

 魅力的な話。終わっていない感。もう少しこの世界、読みたい。切迫感と脱力感そして絶望はしていないけど希望もない状況の中で思いがけずわずかな確率で成功することに挑んでしまう。外に向かうことなく内に向かっておきながら世界を変えてしまう可能性は、いまの時代にけっこう身近に転がっていそう。それは恐怖か希望か。読後感◎

 

『REcycleKiDs』NovelJam 2018グランプリ作品

REcycleKiDs』 ふくだりょうこ(著) 野崎勝弘(編) 波野發作(デザイン)著

 楽しめた。しっかりした構成。クライマックス。すばらしい演出。最後までどうなるのかわからないように工夫されていた。淡々とした語り口だからこそ効果的なエンディングだったと思う。アンソロジーなどに納められても違和感のない完成度。読後感◎

 

『その話いつまでしてんだよ』NovelJam 2018山田章博賞作品

その話いつまでしてんだよ』 森山智仁(著) 米田淳一(編) 杉浦昭太郎(デザイン)著

 昭和から平成へ。その時に妙な社会の重圧を感じた人もいた。終盤のテンポはよかった。ただ全体としてみると、劇団(それも客はそれほど多くはない)にしては登場人物たちの個性が感じられず残念。当時の劇作家ならどう描いただろうか、などと想像してしまう。小さな村のような劇団内で起きる葛藤や猜疑や欲望は多くのドラマの題材になってきただけに、どうしても読み手の期待も大きくなる。読後感○ なお、著者は改稿版を公開している。

 

『平成最後の逃避行』※新城カズマ賞

平成最後の逃避行』 藤崎いちか(著) 和良拓馬(編) 藤沢チヒロ(デザイン)著

 心地良いドラマ。醒めた感覚と熱い感情が行き交う。雨もいい。逃げているのか、いや、逃げているのではない。向かっているのだ。自分たちがより自分らしく生きるために、勝手につけられた鎖を解き放つ。時代は人を縛るものではないのだから。直接語らずに行動で示していく登場人物たちに好感が持てる。読後感○。

 

『舞勇傅(ぶゆうでん)』

舞勇傅(ぶゆうでん)』 冨士山 絢々(著) 谷口 恵子(編) w.okada(デザイン)著

 短い物語の中で次々と変化をしていく主人公の姿そのものが彼のダンスそのものだろう。影と光。そのコントラストを描き出している点で巧みな作品と感じた。中盤で唐突感(世界が大きく変わる)が否めないものの、ノベルジャムの日数、文字数の制約の中ではいたしかたないことだと思う。本来これだけの物語なら分厚い本になってもおかしくはないのだから。読後感○

 

『ひつじときいろい消しゴム』※特別賞

ひつじときいろい消しゴム』 根木珠(著) 米田淳一(編) 杉浦昭太郎(デザイン)著

 この世界にはまると楽しいのだろうなあ、と思うばかりだった。不思議な世界を彷徨う主人公。この世界はいったいどういう意味があるのだろうか。それともないのだろうか。正直、よくわからなかった。私の住む世界とはまるで違う世界を描いていて、自分自身の本に求めるものとはまるで違う。というわけで私にはこの本を語る資格はないのだろう。それでも、こうした世界を文字で表現できることはすばらしいことだ。読後感○

 

『僕は彼の肉になる』

僕は彼の肉になる』 金巻ともこ(著) ふじいそう(編) 澤俊之(デザイン)著

 この片思いがやがて……。お題の「平成」をこう使うか、というおもしろさも。前半はなだらかな傾斜を登るように話に徐々に引き込まれていき、同時によくある話じゃないよね、という疑問を抱きつつトボトボと進む感じ。著者の筆致のおかげでそれはなかなか快適だ。それがある場面から「おおっ」となっていき、エンディングにやってくると読者はいつの間にかとても高く見晴らしのいいところに辿り着いていて、眼下に広がる景色にグッときてしまう。みごとな作品。読後感◎

 

『たそかれ時の女神たち』※エブリスタ賞

たそかれ時の女神たち』 飴乃ちはれ(著) 澁野義一(編) 嶋田佳奈子(デザイン)著

 明(あけ)、中(なか)、昭(はる)、静(しず)の四姉妹。女神たちの姉妹がいま、新たな妹を得ようとしている。それぞれが背負ってきたものを振り返りながら、酒宴が繰り広げられる……。とても優れた話法、素敵な語り口によって昔話のような世界に引き込まれていく。完成度の高い作品。ただ、私はこの手の作品をあまり楽しめないタチなので申し訳ない気持ちで一杯になった。きっと心がねじくれてしまっているのだろう。読後感○

 

『魔法少女リルリルリルリと俺の選択』

魔法少女リルリルリルリと俺の選択』 アンジェロ(著) ハギヨシ(編) 古海あいこ(デザイン)著

 別の世界に入り込んでしまう話は多種多様で今日も誰かが書いているだろう。その中で勝負をしなければならないのは大変なことだと思う。主人公は二次元の世界に入っている。ゲームである。行動は表示される選択肢からしか選べない。何度も同じことをループする。悪夢のような状況から脱する方法はあるのか。彼はこの中で親密になっていく彼女と最後はどうなってしまうのか。軽いタッチで描くことは、案外難しいはずだが、著者はやすやすとその独自世界を描き出す。エンディングのひねりは、これはこれでいい読後感を与えてくれるものの、バッドエンドもあってもよかったかもしれないとひねくれ者の私は思うのだった。読後感○

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『グッバイ、スプリング』NovelJam 2018特別賞作品

グッバイ、スプリング』 寧花(著者)小野寺ひかり(編集者)山家由希(デザイナー)著

 思いがけなくグッとくる。そんな作品。主人公の女性は、自身の死を予告された法医学者。ふと立ち寄ったカフェであるカップルの別離の場面を目撃する。美しい女は男をなじって去り、男は残される。別の日、同じ店で男は主人公に接近してきた。そして男から美しい女の話を聞く。生と死が交錯する瞬間を描く。著者の柔らかな眼差しを感じる。しかし設定に馴染めない読者もいるかもしれない。こうした立場になった法医学者はこのような言動をするだろうか、そのようなことのあった男は法医学者に接近するだろうかなどなど。全体を包む柔らかさ。そして、読んでいる間の心地よさ。読んだあとのこちらの気持ちの変化もよかった。読後感◎

 

『ユキとナギの冒険』※優秀賞

ユキとナギの冒険』 牧野楠葉(著) ハギヨシ(編) 古海あいこ(デザイン)著 

 疾走感、切羽詰まった焦燥感、スピード感。いろいろ感じる作品。著者の持つ出口なきパッションが暴れ回っている。2日で書くノベルジャムに漂う雰囲気がそうさせたのか。著者の根源的なものか。過激な語感を楽しみつつ女たちの暴走を応援したりヒヤヒヤしたりうんざりする。言葉の選択は吹っ切れている。だからといって卑猥ではない、あけすけである。軽薄なわけではなく、裏表のないストレートな表現は読者になにかしらの痕跡を刻もうとするだろう。読者にナギの手にしたナイフのように直接届く言葉を模索する著者。それを受け入れるのか、拒絶するのか。この冒険の行き着く先は70年代のアメリカン・ニューシネマ的でもある。もう少し長く楽しみたかった。読後感○

 

『ツイハイ』

ツイハイ』 渋澤怜(著) ふじいそう(編) 澤俊之(デザイン)著
 さあ、来たな、という感じ。一筋縄ではいかない作品の登場。サラッと読んでしまうと実はつまらない作品なのだが、まばたきせずにきちんと読むと(そんなことはできないが)、洪水のように飛び交う言葉の中から見えてくる地平があるのです。1度でそれを感じないときは2度読むといいかもしれません(私もそうしましたが)。語りはじめるとたくさん語ることになりそうなので自制しますが、もともと日本では落語や漫才などコール&レスポンス型の「話芸」があり、それが「語り」であって現代語の小説や物語にも反映されてきた経緯があります。筒井康隆を引っ張り出すまでもなく、こうした作品はむしろ私たちの中にあるものだと感じました。読後感○

 

『オートマティック クリミナル』NovelJam 2018藤井太洋賞作品

オートマティック クリミナル』 高橋 文樹(著) 澁野 義一(編) 嶋田 佳奈子(デザイン)著

 システムによって安全が保たれた町で、なぜかある年齢の子だけが交通事故の犠牲になる。自分の妹を事故で失ったハヤタは、その原因を解明しようとします。彼が知ることのできた真実とはなにか。「クリミナル」は犯罪のこと。つまり自動犯罪。自動と児童を掛けたのでしょうか。この未来では、人々は階層を固定化されてそこから脱出するためには大変な努力が必要となります。ハヤタは1万8000時間も労働しなければ大学受験資格を得られません。年齢に関係なく働くのが当然になっているのです。8時間労働としてざっと6年半ぐらい働かないと大学にも行けないのです。この作品はSFらしい世界を巧みに表現しています。考えさせられる社会派的な要素を取り入れた意欲作です。読後感○

 

『バカとバカンス』NovelJam 2018鈴木みそ賞作品 ※優秀賞

バカとバカンス』 天王丸景虎(著) 野崎勝弘(編) 波野發作(デザイン)著

 壮大なテーマを俯瞰部分と尖端の部分から描き出しています。私たちがなぜいるのか、という永遠の命題に触れつつ、著者特有の語り口によっていい意味での軽さが保たれ、最後までスムーズに楽しく読める作品です。大きな話をいかに「小説」として可能な限り短く、読者の負担が少ないパッケージとして提示できるか。そんなことを本作を読んで感じました。その気になれば10巻ぐらいあるサーガにもできそうな話です。タイトルはふざけているようなイメージでありながら、SMAPの曲(詞は宮藤官九郎)を想起させもしますが、作品の最後にしっかり描かれることでイメージはまったく違うものに転じます。読後感◎

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ますもと・てつろう

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投稿者プロフィール

「かきっと!」の編集長です。記事もいろいろ書いています。

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