『それでは小説にならない ―元編集長が語る創作の作法―』(今岡清著)

『それでは小説にならない 日本独立作家同盟セミナー講演録 Kindle版』
今岡清 (著)

印刷版と電子版で9月29日正式発売

 本書は、NPO法人日本独立作家同盟でのセミナーを元に構成しています。「第1部 小説を書くということ」と「第2部 名作を書くために」がメインとなります。そこに本書のためのロングインタビュー「早川書房について」「海外作家について」「日本の作家について」「セルフパブリッシングについて」が加わっています。
 著者が読者に話しかけてくるスタイルですので、とても読みやすく感じられます。
 また、論じるというよりも、長年の編集者としての経験、そして妻であった作家・栗本薫を通しての経験、翻訳をした経験などに基づいた話が中心です。ときにフレンドリーに、ときに厳しくお話になっています。
 今回、私は、印刷版を予約したのですが直後にメールをいただき、発売日直前まで読むことのできる電子版(ベータ)で、先行して読むことができました。これはおもしろいサービスですね。なお、この電子版(ベータ)はブラウザで読むことができて、読み上げもしてくれるなかなか楽しいものでした。新しい読書体験といった感じ。
 印刷版については、こちらのボイジャーの申し込みページへどうぞ。
 というわけで、発売前に手元にまだ本が届いていないのに先読みできてしまったのです。
 著者の経歴からしても、また本書の構成からしても「SF」というジャンルを意識するわけですが、SFを読まない人も、SFを書かない人も参考になることでしょう。
 印刷版と電子版で2017年9月29日正式発売となっています。

小説を書きたいのか、作家になりたいのか

 厳しい話としては、もうのっけから、ズバッと突っ込んできます。
 なぜ小説を書きたいの? どうして作家になりたいの? こういうシンプルなクエスチョンだけでも、元を取れちゃいますね。
 これはほかの職業でも言えることかもしれません。地位とか肩書きに対する憧れが大きすぎる場合は、ともすると向いていないことを努力し過ぎて、なおかつ結果的にも苦しくなっていくのではないか。こういう感覚、ありますよね。
 誰かが「作家は最後の職業」と言っていたと思います。なぜ最後なのか。そのあたりとも関連する話でしょう。
 現実として、作家になったら24時間、小説を書き続けることになります。終わりがありません。書かなくなったら、作家としても終わることになる(ベストセラーを書いた人やたくさん受賞した人は名誉と「名作」が残りますけど)。もし小説を書きたい気持ちがそれほどない人が作家になったら、これほど苦しいことはないだろうな、と思います。
 このあたり、本書で著者が味わい深く語っております。

作家は脳内でシミュレーションしている

 また、おもしろい話として、作家は「どうやら頭の中でシミュレーションしているいようだ」と気づくところ。著者が出会った作家たち、星新一、小松左京、筒井康隆、神林長平、大原まり子そして膨大な作品を書き評論家としても活躍した栗本薫らを通して発見したことだと思います。
 プロットだなんだ、という以前に、脳内で物語は生まれ主人公たちは活躍しているのです。つまり、脳の中で、どれだけ具体的に世界を創って、そこでキャラクターを遊ばせて、または人生を、日常を送らせておくことができるのか。そこが重要になってきそうです。
 どうすればそんなことができるようになるのでしょう。
 というか、それができている人が作家になっていくのかもしれません。このあたりも、さすがSFっぽい感じもあって、おもしろい話ではないでしょうか。
 テクニックでは「モード」について触れています。このあたりの発想は著者自身ジャズシンガーであるので、ジャズの形式にも関連しているのかな、という気がしました。私自身、ジャズが大好きなので、モードといえばマイルス・デイビス、そしてジョン・コルトレーンですけど……。あ、脱線しました。

ロングインタビューはこれからSFを読む人にもお勧め

 ここでは、編集者視点での有名な作家についての話がなかなかおもしろいので、これからSFを読もうという人にも興味深い内容だと思います。ギブスン、スターリング、クラーク、ハインライン、アシモフ、高千穂遥、神林長平、大原まり子、栗本薫などの名が出てきます。でも、マニアックな話に過ぎることもなく、かなり一般化されているのではないかと感じました。
 もちろん、SFに詳しい人なら、なおさらおもしろいのではないでしょうか。比喩が悪いかもしれませんが、かつての吉田監督が語る阪神タイガースみたいな……。

セルフパブリッシングはどうなの?

 ビシッと未来を見据えた話というわけではありませんが、セルフパブリッシングについても著者の長年の経験から含蓄ある言葉が次から次へと飛び出してきます。とくに演劇を例にした話は、とても印象的でした。「すべての役者はアマチュアではなくプロなのだ」という意識。どんなにマイナーな、どんなに小さな劇団でもプロとしてやっている。食えないけどプロ。このあたりはリアリティがあります。
 訳知り顔で「生活できなければプロじゃない」と言うのは簡単です。ですが、食えないからアマチュアなのか。それは違うでしょう、ということです。このあたりの意識は、冒頭の、「小説を書きたいのか、作家になりたいのか」へとフィードバックしていくのではないでしょうか。

『それでは小説にならない 日本独立作家同盟セミナー講演録 Kindle版』
今岡清 (著)

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本間 舜久

本間 舜久

投稿者プロフィール

小説を書いています。ライターもしています。ペンネームです。
カクヨム

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