『会社に雇われずにフリーで働く! と決めたら読む本』(立野井一恵著)

目次
現代の働き方を考える好著
読みやすい本です。それでいて、フリーで仕事をしていく上で、忘れてはいけない部分をしっかり網羅。とくに必ずぶつかるであろういくつかの壁について詳細に指摘しています。「フリーになれ!」とも「フリーはやめておけ!」でもなく、フリーを選択したら、このぐらいのことはやる、考える、覚悟する、ということがまとめられています。
著者の立野井一恵さん自身、長くフリーで仕事をしているだけではなく、フリーで働く仲間たちと連絡を取り合うなどして、精力的に活動をされていることから、頭だけで作られた本ではない点が魅力です。
軽いタッチでサクサクと読めるのは著者の技術です。それでいて、言葉に重みがあるのは、著者の経験によるものです。
さらに独断に陥らないように、周辺の他のフリーランスの人たちを取材して、視野の広い本になっています。
フリーの人も、フリーを考えている人も、フリーではないがフリーランスの人と仕事をしている人も一読の価値があります。
私のフリー経験
この本を紹介する前に、自分のことを少し振り返ってみます。やや長めですが……。
フリーランスは、「自分の意思」で選択することのできる働き方です。一方、選択肢がなくて仕方なくフリーランスになっている場合もあります。
ですが、客観的には前者なのか後者なのか区別はつきません。
私自身、現在フリーランスです。最初のフリー経験は24歳でこのときは食えず、1年足らずで某社へ入社。その後順調に会社勤め(編集の仕事)をやっていて、30代でまたフリーランスに。この時はやる気でフリーを選択。ところが事情があってやっぱりまた5年ほど会社勤め(編集の仕事)になったりして、40代半ばまでやっていました。そしてその後は今日までフリーランスでやっています。つまり、特にフリーにこだわっていたわけではありませんでした。でも、今年(2018年)で恐らく会社勤めの月日をフリーランスの月日がほぼ同じになっているんじゃないかと思います。やっている仕事は会社にいてもフリーでもカテゴリーとしては出版、編集、執筆なので、職を転じたと思える経験は1度しかありません(24歳のとき。営業から編集へ)。
フリーランスはさまざまな問題にぶつかります。会社勤めでも同じでしょうし、経営者でも同じでしょう。フリーは「個」で活動していることもあって、問題にぶつかったときに対処する能力も「個」で大きく違ってきます。上手に乗り越える人、うまくいかなくなる人が出やすい。会社勤めでも失敗をして失職して転職ということはあり得るし、経営者でも倒産などはあり得るので、リスクはフリーが極端に高いとは思えないのですが、いくつか「個」であるためにとてもリスクが高い場面があります。
いまでも忘れませんが会社勤め時代の知り合いでその後経営者になった人から、出資話を持ちかけられたことがあります。出資といえばカッコいいですが、要するに「お金を貸して」とあまり変わりませんよね。で、このとき私はフリーだったので「貯金もないしムリ」と堂々と断ることができました。同時にこういうときに貸せるお金もないことを、「ちょっとマズイんじゃないか」とも思ったものです。フリーで貯金をするのは、けっこう大変です。
また、1980年代あたりでフリーになるときには「クレジットカードはフリーになる前に作れ!」と言われていたほど、公的信用に欠けていました。実際に私は会社勤めのときに作ったカードでその後、何度か助けられます(苦しめられる、とも言えますが)。
お金については、フリーは特にコントロールが難しいと実感しています。
また転職、つまり職を変えることもけっこう難しい。30代ぐらいまでならスクールに通うなどしてまったく違う職種へ移ることも不可能ではないと思いますが、40代ぐらいからはかなり難しい。その点で、フリーランスには定年はないので、「一生やっていける」まはた「一生やっていたい」職種を見つけた方がいいような気もしています。とはいえ、21世紀に入ってからは本格化するIT時代、グローバリゼーション、さらにAIの進化なもあって仕事はガラッと様相が変わってきました。20世紀に見えていたような「一生やっていける」職種などもはやないかもしれません。働き方を見ても、人材派遣が増えていき、フリーランスに近い働き方が一般的になってきています。
で、いまの時代にあえてフリーランスを目指す、またはフリーランスで働いている、さらにフリーランスになっちゃった場合には、これまで以上のさまざまな問題解決能力、壁を突破する力が求められそうだなあと個人的には思います。
フリーでやっていくための6つの覚悟
『会社に雇われずにフリーで働く! と決めたら読む本』(立野井一恵著)には6つの章があります。
Chapter1 フリーランスのリスク Chapter2 フリーランスのマネー管理 Chapter3 フリーランスのブランディング Chapter4 フリーランスの営業術 Chapter5 フリーランスの人脈づくり Chapter6 フリーランスのシフト力 |
シンプルに言えば、この6つの覚悟を持て、ということです。リスク、マネー、ブランディング、営業力、人脈、シフト力。どれもなかなかハードなもので、多くの人が「そうありたいと思ってもできていない」と感じていることではないでしょうか。それが、フリーランスの場合、できないことによって受けるダメージがあまりにも直接的である、ということ。リスクに無知なら続けられないでしょうし、マネーに弱ければ大損するでしょうし、ブランディングができなければ仕事があまり来ないでしょうし、営業できなければ発展できないでしょうし、人脈ゼロではそもそも事業として成立しない可能性もあるし、シフト力がなければ時代の波間に消えていく可能性もあります。
私自身、この本で指摘されていることの多くが「未達」なので、いま生きているのが不思議なぐらいです(悪運というやつでしょうか)。本書を読んで痛切に「自分はフリーだなんて言えないなあ」と思います。ただなんとなく、昔風に言えば「なんちゃってフリー」な感覚ではじめているわけですから、そもそも覚悟の段階で大きな差が出来ちゃっていますね。
これからの人は、ぜひ、本書で少しでもよくなるように心がけていただければと思います。メタボと一緒で、「そうなりたい」と思っても現実にはなかなか理想の体重にはなりません。ですが、少しでも体にいいことを増やし、体に悪いことを減らせば健康度は高くなるはずです。フリーとしての生き方も同様で、6つの覚悟を意識して少しでも改善できればいいのではないでしょうか。
最大のリスクは健康
「Chapter1 フリーランスのリスク」では、「身体が資本ということを自覚しよう」(P34)とあります。企業という屋根もなければ、社会保障という土台もしっかりしていない状況で、風雪にさらされながら立ち続けることはそれなりに「できる人とできない人」に分かれそう。家族の状況などでもここは左右されます。持ち家ならそれだけでもかなりいいし、家族が別の仕事を持っていて安定しているならそれもいいでしょう。
私が最初に入った編集関係の会社では、数人の先輩たちが「ガンガン仕事してバタンと倒れてそのままあの世」を理想としていました。そして数名の先輩たちはそれを実践されました。私はすでにこうしたスゴイ先輩より長生きしちゃっていますが……。会社勤めでもフリーでも同様に、リスクを無視して生きることはあり得ます。それが無責任にならないように、真剣に考えてもいいテーマでしょう。もちろん、健康以外にもさまざまなリスクはありますので、知っているのと知らないのとでは大きな差になりそうです。
青色申告ぐらいはクリアしたい
「Chapter2 フリーランスのマネー管理」では、耳の痛い話も出てきます。
私もフリーになったとき、フリーランスの先輩が「白で十分だよ」と豪語していたのです。でも家族を専従者にできる(わずかですが給与を払える)、65万円もの控除(貸借対照表、損益計算書を提出する)、しかもPCソフトで簡単にやれるとわかれば、「やらない手はないよね」と思ったものです。地元の青色申告会にフリーランスは皆無で、薬局や雑貨屋のオバチャンに「あんた、そんなの通らないよ」と言われ、ウソを教えてもらいながら税務署に呼び出され「誰がそんなことを言ったの」と驚かれたり、帳簿を一緒に見てもらって「ほら、ここが違うからだよ」と簿記の初歩を教えられたりしながら乗り越えました。白、つまり白色申告だって申告の手間はほとんど同じなのです。2014年(平成26年)1月から白色でも帳簿が義務付けられたので、どうせ同じような手間をかけるなら65万円の控除があった方が助かるんじゃないの、と思うのですが……。
そして、お金関係でいえば、キャッシュフローの問題が常につきまといます。仕事を請けると経費がかかります。そしてその収入は数か月先です。その間、生きていかなければなりません。生きているだけではダメで仕事をしなくてはなりません。お酒も飲まねばなりません(私の場合)。お金の出入りに無頓着だと大変なことになりますよね。
自分を安売りしがち
「Chapter3 フリーランスのブランディング」で指摘されているように「仕事量や時給を考えて自分を安売りしない」(P122)ことは、よく考えてみたほうがいいでしょう。
私自身は高く売ったこともなければ安売りしたこともないものの、クラウドソーシングが出始めた頃にまさかそれが価格競争になっていくとは知りもせず、首を突っ込んで「うわあ、このままこの仕事をしていたらジリ貧になる!」と慌てて手を引いた経験があります。仕事量は豊富で払いもいいのですが、その安心感と引き換えに単価は驚くほど安く、手間をかければかけるほどこっちがバカを見てしまう。自分の能力で計算すると毎日12時間ぐらい仕事しても、コンビニのバイトに負ける。これで身体を壊したら、むしろ被害甚大だ、と思ったものでした。
安い高いに関係なく、一時的にはガムシャラに来る仕事をこなしていくこともフリーとしてはあり得ることです。あくまでも「一時的」です。恒常的にならないように注意をしなくてはならないのですが、ハマってしまうとなかなか抜け出せないことも多いかもしれません。仕事は請けた以上は責任もあるし。
あと、いまでもそうですが、PR系の仕事はプレゼンが多く、プレゼン費用の出ないケースが増えていて「ただ働き」もあり得ます。毎日すごく忙しいのに、ぜんぜん請求書が切れない状況になると、「これが仕事と言えるのか」と思ったりもします。また、単価がよさそうな仕事だったのに、手離れが悪い(たとえば何度も何度も何度も、クライアントの要望が変更になって書き直しになる)仕事もけっこう潜んでいます。そういうことにぶつかったとき、どう思うか(これも人脈づくり、営業だと思って、などなど)。
営業はなかなか難しい
「Chapter4 フリーランスの営業術」も、なかなか実践しにくい面のある重要なテーマです。
営業力のない会社は売り上げが伸びません。「そんなことはわかってる!」となるのですが、自分のことで考えるとなかなか実践できません。本書で「3つ以上の収入源を確保」(P130)とあるものの、この理想に現実は追いつきません。本書で指摘されるように、たまたまいい状態だったとしても、ある日突然、先方の担当者が変わる、あるいは方針が変わる、さらに自分自身の加齢(毎年、年を取ります!)などが影響しやすいのです。
たとえば、私も経験していますが、仕事先の担当者がかなり若い人になり方針もより若い読者層へシフトしていったとき、これまで長年付き合いのあった人でも見直されてしまう(外される)ことが起こり得ます。せっかく上手になったのに、そのスキル以上に時代性を必要とする場合もあるのです。会社なら役職がついたり子会社に出向もあるでしょうが、フリーランスは自分で打開しなければなりません。
フリーの職種にもよりますが、営業がしやすいものと、しにくいものがあるのも事実でしょう。とにかく名刺を配ればなんとかなることもあれば、なにをしたって成果が出ないこともあり得ます。自分そして自分の職種に合った営業スタイルを身につけるのには、かなりの時間がかかると考えていいと思います。企業では営業スタイルを開発しますし、研修もあります。でも、フリーにはなにもない。せいぜい知り合いのやっていることを真似るぐらい。これはけっこうシビアに考えておきたいテーマです。本書はその役に立つでしょう。
個とネットワーク
「Chapter5 フリーランスの人脈づくり」ではネットを含め、人付き合いについて考察されています。
インターネットが一般的になってから、個と個をゆるやかにつなげたネットワークは自然と発生していきました。本書でもニフティのフォーラムの話が出てきますが(P164)、いまの時代ではSNS、SMSによるつながりは相当なものです。
しかしそれが仕事につながるかどうかは、まったくわかりません。私がなにげなく紹介した人に、私の知り合いがいい仕事を提供する、といったことは実際に起こっています。「いい仕事」に見えるのは私から見ているからで、実際にはそれほどいい仕事ではない場合もあるでしょう。当たり外れはやってみないとわからないことも多く、自分なら「いい仕事」に思えても相手にはそうは思えなかったり、その逆もあるのです。
したがって、ネットワークは、社内のような緊密な関係よりも、ゆるやかに保ち続ける方がいいかもしれない。
それでは「人脈」と呼べるほどの関係になるのかわからないとはいえ、無限にアクセスを拡張できるかもしれないと期待することはできます。本書P174の『バーチャルな世界で「無名」にならないように注意』あたりからは実践的な話が参考になると思います。
またP178「新しい仕事やチャンスはいつも人が運んでくる」は私を含め多くのフリーランスが経験していることです。人脈といっても仕事になるかどうかはわからない中でのお付き合いはあるわけで、それがフリーでやっていく上での拠り所になっていたりもします。精神的な面での支えになっているのです。仕事をいただけるのはもちろん大事ですが、そうした気持ちの点でのつながりも有益なのですよね。
この発想はなかった! シフト力
本書は、全体として「そだね―」とうなづける部分が多かった私ですが、最後の「Chapter6 フリーランスのシフト力」は、自分にはなかった発想でした。
専門性を磨くほうがフリーとしては看板がはっきりして仕事を発展させやすいのですが、一方で、時代の変遷、加齢の問題などから、長期にわたっての戦略も視野に入れておくべきだと本書は指摘しています。
フリーになるとき、自らなる覚悟はあっても、その時にはたまたまフリーで食べていける風潮だった、ということもあり得ます。私は編集、ライターですが、この数年、関わっていた雑誌は大幅に売り上げを減らし、リニューアルしたり休刊という名の廃刊に追い込まれていきました。雑誌の記事を書く仕事は、どんどん減っていきました。また、書籍のライティングもかつてのような費用構造ではなくなっており(売れないので)、簡単なことではありません。とくに売れっ子でもない私でも仕事を得られたのは、たまたま「いい時期だった」からと言ってしまえばそれまでで、その条件が変わったときにはなにかしらシフトしていかないと生き残れなくなるのです。
もっとも、このシフト力もいまどの企業にも求められていることです。昨日までサンクスだったコンビニがいまはファミリーマート。同じコンビニでも看板が変わっただけではなく品揃えも変わります。そうかと思えば古い家がリフォームされて古民家カフェになったり、インバウンドのための宿泊施設になったりもする。企業や町を見ていれば、みんなシフトしているのです。フリーランスだって例外ではないのです。
いまさらながらですが、シフトしていけるかどうかは、「生涯フリー」でいられるかどうかの重要なポイントになりそうです。
☆こちらの記事もご参考にどうぞ→フリーランスは定年がない。だけど、老後もない?
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