現代と未来への視点を持つ『武器としての「資本論」』(白井聡著)

Farmer Agriculture Harvest Vietnam  - kirildobrev / Pixabay

武器としての「資本論」(白井聡著)

この社会の構造、仕組み、原理に迫る視点

『資本論』と聞けば、経済の話、それとも思想の話、共産主義の話といったイメージになるかもしれません。
 ですが、本書は、いま私たちが生きているこの社会の構造、仕組み、原理に迫る視点を与えてくれます。現代を見る、未来を見るための視点です。
 そのための『資本論』となっています。ですから、入門書としてはかなり特別な仕様になっていて、著者が選びだしたいまの私たちを描き出すために特徴的な『資本論』の考えを中心に構成されています。
『資本論』全体を俯瞰したい、網羅的に知りたいといったニーズにはマッチしないかもしれません。
 本書には私たちが日頃、「社会問題」あるいは政治的な問題としてとらえていることの多くが、資本主義の問題であることに気付かされますし、肝心の部分を見通すための目を与えてくれるのではないでしょうか。

目次 全14講の講義スタイル

はじめに 生き延びるための「武器」としての『資本論』
第1講 本書はどのような「資本論」入門なのか
第2講 資本主義社会とは? ――万物の「商品化」
第3講 後腐れのない共同体外の原理「無縁」 ――商品の起源
第4講 新自由主義が変えた人間の「魂・感性・センス」 ――「包摂」とは何か 
第5講 失われた「後ろめたさ」「誇り」「階級意識」――魂の「包摂」 
第6講「人生がつまらない」のはなぜか ――商品化の果ての「消費者」化
第7講 すべては資本の増殖のために ――「剰余価値」
第8講 イノベーションはなぜ人を幸せにしないのか ―― 二種類の「剰余価値」 
第9講 現代資本主義はどう変化してきたのか ――ポスト・フォーディズムという悪夢 
第10講 資本主義はどのようにして始まったのか ――「本源的蓄積」 
第11講 引きはがされる私たち ――歴史上の「本源的蓄積」 
第12講 「みんなで豊かに」はなれない時代 ――階級闘争の理論と現実
第13講 はじまったものは必ず終わる ――マルクスの階級闘争の理論 
第14講 「こんなものが食えるか!」と言えますか? ――階級闘争のアリーナ

現状に対する見方が大きく変わります

「はじめに」で、私たちが現在、社会での常識とされる人間関係が「資本主義に特有の社会的関係の反映」と指摘されます。
 現代社会は身近に、資本主義以外の比較対象となる社会構造がないので、慣れすぎてしまっているのです。
 本書を通して『資本論』による資本主義に対する分析を知ることで、いま私たちが生きている現状に対する見方は大きく変わります。そこが、本書の最大のおもしろさだと言えます。
 私的には、「自由主義」で生きるのなら自由なので、資本主義を選択しなくてもいいのではないか、という気がするものの現状では他に選択肢がないわけです。ということは、私たちは自由ではないのです。
「第2講」では、「商品」について深く考えていくのですが、本書のいいところは、事前に考えるための基礎的な情報が与えられていくところ。「はじめに」に本書のスタンスが、「第1講」で具体的になにをしていくかが書かれているので、飛ばさないほうがいいでしょう。
 私たちは自由ではないのかといえば、「商品はある意味で、人を自由にする作用を持っている」(第3講)のも事実です。経済活動と私たちの日常活動つまり人生の接点を高速で便利にし、なおかつ簡素にしてくれたのです。朝、ネットで注文したものが夕方に届きます。取りに行く必要はないし、交渉する必要もない。こちらがどんな生活状況か相手に知られることもない。現金がなくてもカードで買える、ポイントで買える。
 こうした自由は、どこかにしわ寄せが行っているのではないか。
 そんなことを一度でも考えてみることは、私たちのこれからを見通すときにとても大切なことでしょう。

突き詰めると怖い

 本書は読み方によってはとても怖い。ホラーといってもいいでしょう。『商品による商品の生産』といったキーワードひとつとっても、突き詰めると怖いのです。それを日常のこととしている私たちの普段の生活が、なんだか怖い。私たちが「将来どうなりたい?」と聞かれて考える将来、「どんな幸せがほしい?」と聞かれて夢見る幸せ。それが、どう考えても資本主義の反映に過ぎないとしたら?
 資本主義の見る夢は、ひたすら資本を大きくしていくことだとすると、私たちはそのために必要なことをしなければ、将来も幸せもない、と思ってしまうわけです。
 現実に、そうした圧力による軋轢や身心への影響も感じることがあるかもしれません。私たちはそれを「社会」の歪みとして捉えていますが、その中にはいまの仕組みや考えではどうしても是正できないことも多く、それらは資本主義であるから是正できないかもしれないと気付けるのです。
 力関係の行き着く先になにが起こる可能性があるのでしょう。資本はただただ拡大するだけ。それは膨張する宇宙のように果てしないのでしょうか。人知を越えているのでしょうか。もしかすると、AI(人工知能)を求めているのはこうした資本主義の本能なのかもしれません。人による資本主義に限界を感じているのではないでしょうか。

 

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ますもと・てつろう

投稿者プロフィール

「かきっと!」の編集長です。記事もいろいろ書いています。

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