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ネコ、猫、ねこ……さまざまなネコが登場する小説集『猛チュールの惑星』

セルパブ(セルフパブリッシング)の作品を中心に、「猫」が登場するSFおよびSF周辺の作品によるアンソロジーです。セルパブ界を中心に大活躍中の波野發作氏の呼びかけで生まれました。
いずれも、作家たちが持ち寄って提供した作品で、既出のもの、自身の作品集から一部を提供したもの、書き下ろしとさまざま。作品の長さもショート・ショートから長編まで多様です。私(本間舜久)も2作品を書き下ろしています。そこで、簡単に掲載作品を紹介してきます。あくまで作品を読んだ上での主観的感想を含めた紹介なのでご了承ください。
このページに埋め込まれたパーツでもお読みいただけますが、EPUB形式でダウンロードして、お好みのアプリ(Google Playなど)で開くと、ご自身の環境に沿った表示で楽しめると思います。無料です。なお、この作品集には、あとから作品が追加されることも想定されますので、DLした場合は追加されていないかBCCKSでチェックした方がいいでしょう。
目次
目次
口絵(ネコのいる風景写真と夏目漱石「吾輩は猫である」からの引用)
ネコと和解せよ[伊藤なむあひ]
猫。あるいは夏へのスフィア[波野發作]
いつもポケットに小さな猫を[淡波亮作]
アンフォールドザワールド[山田佳江]
キャットタイピング[東雲飛鶴]
我々は宇宙人だ[青目猫]
猫[めきし粉]
猫の目も借りたい[解場繭砥]
右腕/猫の道[本間舜久]
世界は猫の目[梶舟景司]
ねこいらず[井戸乃くらぽー] ←追加!
ミーアキャットがフライパンになった日[ウィリー・アルバ]
ボックス、アプロックス[波野發作]
絶対零度の猫[水上基地]
ネコと和解せよ[伊藤なむあひ]
前半、ネコを病院に連れて行こうとする主人公。ところが意外なことが起こり、私たち読者はファンタジーの世界へ飛び込むことになります。ネコが素早く身をひるがえすように、世界が大きく変ります。なんとなく、目線が低く感じられ、それはまるで私たちが子供の背丈ぐらいに戻ったような楽しい気分になります。世の中がまったく違って見えます。ネコは病を治すどころか……。
本作は著者の『神聖なる』に含まれている作品です。著者の伊藤なむあひさんは、妹さん、叔父さんと隙間社を設立し、KDPで多彩な作品を発表しています。
猫。あるいは夏へのスフィア[波野發作]
ジェシカと猫のディックのお話。この作品の世界は壮大な宇宙の中の、奇妙に地球っぽい紅葉商店が中心にあるようです。彼女は紅葉商店でバイトをしています。店のあるビルの屋上(ペントハウス)に住んでいます。本が大好きで古書を大量に読み漁っています。そのほか情報量が膨大な作品なので紹介がとても難しいのですが、それでいて(わからないことはわからないまま飛ばして)、温かい空間が広がっています。宇宙って冷たいんだろうと思っていると、なんだかけっこうホンワカしていますね。そんな感じの作品です。猫との意思疎通のくだりなど、ユーモラスです。メインは紅葉商店に持ち込まれた使い方のわからない機械。これが、なかなか楽しい装置であることも判明します。もちろん、猫にとっても。
本書は著者の『オルガニゼイション ディスチャージ・ディストーション』に含まれている作品です。著者の波野發作さんは、出版・編集そして作品づくりで幅広く活躍中です。
いつもポケットに小さな猫を[淡波亮作]
わたし、毛玉のようなマル、そしてハツミ。あの暑い夏の日に起きたこと。それは、マルと名付けたポケットに入ってしまうほど小さな猫との出会いからはじまったのです。なにげない青春の一場面が、特別なものになっていく
甘酸っぱい、そしてしょっぱい汗を少し振りかけたような優しくて儚い出来事。だからこそ心に残るのでしょう。
元プロミュージシャンの著者は多才な活動をされています。『イン・ザ・フォグ: 〜永遠なる闘い;王家の秘めたる歴史〜』は、世にも美しい猫、スティングが登場するヴァンパイア・キャット小説。
アンフォールドザワールド[山田佳江]
3人の女子中学生が動物園でキリンを撮影していたとき。奇妙な体験をする。よくわからない物体がキリンから産まれて猛スピードで走り去ったような気がしたのだ。そしてイチゴ・クラウドイーターと自称するちょっと変わった少年が登場する。なにが起きているのか。なにに巻き込まれているのか。物語は、著者のnoteに続くのです。
不思議な光景、少しグロテスクな瞬間、かわいらしい会話などを楽しみながら、ふわっとした独特の空気に包まれる作品。著者である山田佳江のサイトもどうぞ。
キャットタイピング[東雲飛鶴]
この作品はとても短い。それは「200文字小説コンテスト」の応募作品だからです。この文字数で表現するのはなかなか大変なことです。詩のようなイメージの断片になりがちな文字数ながら、著者はうまく情景と主人公の気持ちを表現しています。『やきたて・おとどけ~茅ヶ崎の幼馴染みは元カレで~《氷ノ山神社奇譚》』もどうぞ。
我々は宇宙人だ[青目猫]
猫の底知れなさ。冒頭、壮大なSFがはじまる予感。そして……。内容については書けません。短い作品なので。
著者は『帝国の花嫁』などを刊行しています。
猫[めきし粉]
主人公の出会った猫は、現実なのか。幻覚なのか。短い作品です。ふわっと浮いているようで足は地面についているような感じもする作品。
著者の「けったいな話」などを集めた作品集『めきし粉幻想小説短編集』もどうぞ。独特の世界を構築中。
猫の目も借りたい[解場繭砥]
彼女をいつも眺めていたいので、彼女の飼い猫を改造してネットでその目に映るものをモニターできるようにした主人公。その技術はやがて世の中を変えるほどの発展を見せていき……。
江戸川乱歩的語り口とでも言うのでしょうか。奇譚風でありながら、いかにもいまの時代の「個」を感じさせる作品です。
著者はKDPや文学フリマなどで活躍中。『愛を造る』もどうそ。
右腕/猫の道[本間舜久]
いよいよ私の作品です。感想はなく紹介をします。長くなりますけど……。いずれもこのアンソロジー向けに書き下ろした新作です。どちらも約1万字の短編です。
「右腕」──目が醒めたら●●になる、というパターン。本作では右腕が猫になります。猫のように毛むくじゃらで、指を動かすような気持ちで「にゃー」と鳴いたり、耳や目や口を動かせたりできます。パペットのような腕。そのせいで仕事を失いますが、その腕には思いがけない効用があります。一方で、治療方法が確立されてからは「強制治療」へと社会が向っていきます。治療を拒否する選択はあるのか? コロナ禍の社会を少し反映させた作品になっています。
「猫の道」──がらっと変わってこちらはノワール風。ケンジにすべてを奪われた彼女は死ぬつもりで最後の違法薬物を注射。目の前に水色の瞳の猫が現われます。この作品は猫の目が変わる的に、三つの視点から物語を進めます。最初は死にゆく彼女。次に水色の瞳の猫。最後は、ケンジと同じ反社会組織に属するヤスの視点となります。猫は独特の視覚と脳内のマップがあって、人間より自由にテリトリーを移動します。猫の進む道は、正しい道なのか。それとも……。
私は現在、主にカクヨムで作品を発表しています。「ブラッドシティー」は半世紀前の日本を舞台とした長編ホラーミステリーで、誘拐された少年が主人公です。ただいま連載中。「ねこのおやつ」は猫は実はあまり出てきませんが、奇妙な味のホラー短編です。「底辺かける高さ」は完結した文学寄りのホラーです。「目次だけの本」は、目次のみで本文のない不思議な作品。「倫々爛々(りんりんらんらん)」は完結済みのコメディ。Kindleでは2冊。「デイトレ探偵」、「日銀特務室FR班: ― 五月の六日間 ―」。
世界は猫の目[梶舟景司]
ある日、主人公の前に現われた黒い猫。地球侵略に巻き込まれていく主人公。古典SF的世界を使いながら独自の物語に突き進んでいく。
猫とSFに正面から取り組んでいる作品です。著者には英訳さた作品もあります。「The Book Reader」。著者の近況などはnoteで。
ねこいらず[井戸乃くらぽー]★新規追加作品!
猫は人に大きな影響を及ぼします。この作品では猫が高級嗜好品となって政府の管理下におかれた世界が描かれています。果たして猫の代替品はあるのでしょうか?
ショートショートです。ほんわかした読み心地。著者はシナリオライターでこちらにプロフィールと実績があります。
ミーアキャットがフライパンになった日[ウィリー・アルバ]
友へ書き記すメモ。遺言のような、書き置きのような。いろいろな相手に対して残していく……。
読む者の想像を掻き立てる作品です。『雑誌なんか うっかり創刊号』は著者の参加している雑誌は無料で読むことができます。
ボックス、アプロックス[波野發作]
長く行方不明だった宇宙船が発見された。その探索のため、この物語の舞台である恒星間客船ミティカス号の船長と大半の者たちは発見された宇宙船に行ってしまい、残された者たちはわずかだった。しかも1人、行方不明になってしまう。どこに消えたのか。どうやら謎の箱の中にいるようだ。ところがこの箱は、開けると中にいる人の生死がはっきりしてしまう。開けなければ、その人は存在したままなのか。どうすればいいのか?
猫はどこにいるのか、という話になるかもしれないが、「シュレーディンガーの猫」を調べればいいかもしれない。本書では『猫。あるいは夏へのスフィア』も提供している著者。独特の話術、多彩な登場人物(人間じゃないのも含め)、奇妙な会話など飽きずに楽しむことができる。著者は『SF雑誌「オルタニア」』でも活躍中。
絶対零度の猫[水上基地]
このアンソロジーでは最も長い作品です。青春、恋愛、人工知能、ハッキング、駆動部、そして猫(普通の猫ではない)。それがいかにも淡々と飄々と語られていきます。
著者はおそらくこの世界、とても愛しているのではないか。そんな気もします。著者は野心的な『ゲーテファウスト現代語翻訳版』『現代語訳 純粋理性批判 完全版 (現代語訳文庫)』でも知られています。
(最終更新2020/09/29)
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