丹念に描かれたある家族の物語『紙の動物園』(ケン リュウ著、古沢嘉通訳)

Elizabeth Town Heritage New Mexico  - ArtTower / Pixabay

【期間限定配信】紙の動物園〔短篇〕 (ハヤカワ文庫SF) Kindle版
ケン リュウ (著), 古沢 嘉通 (翻訳)

光輝く宝石のような物語

 早川書房が、短編集の中の1編だけを期間限定で100円で配信するというので予約。この情報はツイッターで知った。

 そして配信されたのが、この作品だった。

 SFだと思い込んでいたのだが、どちらかといえばファンタジーのFだろう。S(サイエンス)の要素はない。
 丹念に描かれたある家族の物語である。
 米国の田舎に住む父親。彼は妻をカタログで取り寄せた。中国の貧しい女性を欧米に斡旋するビジネスがあったのだ。
 英語のできない彼女だったが、やがて子どもを得る。この物語はその子どもが語っている。
 子どものうちは母を慕っていた。中国語しか話せない母。英語が上達しない母。周囲に馴染めない母。彼は成長していくうちに、当たり前のように米国人として育っていき、母を疎ましく感じるようになっていく。
 状況は異なるものの、多くのかつての子どもたちにとっては、多少は感じる親との関係、疎ましさ、さらには嫌悪、離れたいという気持ちが、この作品ではさらりと、しかし素直に描かれる。
 話の根幹に触れることはできないので、これ以上、内容については触れられない。

 短い作品でも、これだけ美しく、光輝く宝石のように物語を構築できるのだ。

 それは小説を好きな者にとっては、すばらしい希望でもある。目新しさや派手さやトリッキーな仕掛けに頼ることなく、まだまだ、多くの感動をもたらせてくれる可能性がある。それが物語であり、小説だと思う。

 いずれ、他の作品も読んでみたい。いますぐ、ではないけど。きっと、ここに戻ってきたいと思う日が来そうな気がするから。
 

(かきぶろ2017年5月1日)

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本間 舜久

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小説を書いています。ライターもしています。ペンネームです。
カクヨム

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