
【期間限定配信】紙の動物園〔短篇〕 (ハヤカワ文庫SF) Kindle版
ケン リュウ (著), 古沢 嘉通 (翻訳)
光輝く宝石のような物語
早川書房が、短編集の中の1編だけを期間限定で100円で配信するというので予約。この情報はツイッターで知った。
そして配信されたのが、この作品だった。
SFだと思い込んでいたのだが、どちらかといえばファンタジーのFだろう。S(サイエンス)の要素はない。
丹念に描かれたある家族の物語である。
米国の田舎に住む父親。彼は妻をカタログで取り寄せた。中国の貧しい女性を欧米に斡旋するビジネスがあったのだ。
英語のできない彼女だったが、やがて子どもを得る。この物語はその子どもが語っている。
子どものうちは母を慕っていた。中国語しか話せない母。英語が上達しない母。周囲に馴染めない母。彼は成長していくうちに、当たり前のように米国人として育っていき、母を疎ましく感じるようになっていく。
状況は異なるものの、多くのかつての子どもたちにとっては、多少は感じる親との関係、疎ましさ、さらには嫌悪、離れたいという気持ちが、この作品ではさらりと、しかし素直に描かれる。
話の根幹に触れることはできないので、これ以上、内容については触れられない。
短い作品でも、これだけ美しく、光輝く宝石のように物語を構築できるのだ。
それは小説を好きな者にとっては、すばらしい希望でもある。目新しさや派手さやトリッキーな仕掛けに頼ることなく、まだまだ、多くの感動をもたらせてくれる可能性がある。それが物語であり、小説だと思う。
いずれ、他の作品も読んでみたい。いますぐ、ではないけど。きっと、ここに戻ってきたいと思う日が来そうな気がするから。
(かきぶろ2017年5月1日)
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