Ishigaki Island Coral Reef Leaf Sea  - auntmasako / Pixabay

『いつまでも動ける。 年をとることを科学するジェロントロジー』(SAM著)

感想

 伝統芸能「能」に挑戦しつつ、音楽番組やバラエティ番組でも活躍していまなお第一人者として先頭に立つSAMさん。
 3つの楽しみがある本だった。
1、ダンスひと筋の半生を振り返り、身体のこと、父親との確執、若き日にニューヨークで得た死生観、医師家系などファミリーヒストリーとしての楽しみ。
2、ジェロントロジーの入門書として。ダンスだけではなく、この間になんとジェロントロジー(老齢学)の勉強もしていた。本書は、その学びを通じて実感した、健康に生きるための考え方、ジェロントロジーではどのように、長寿社会の生き方を考えているかを、わかりやすく解説している。
3、股関節を中心に、50代、60代から、「いつまでも動ける」カラダ作りについて、独特の「これだけ」の実践編。図、イラスト、さらに動画でいまからすぐ実践できるものを教えてくれる。

本書で得られること

 ・還暦以降も活躍するための運動、食事、睡眠、コミュニティ。
 ・超高齢化社会を生きるための考え方
 ・ジェロントロジーという学問と老いのメカニズム
 ・ダンサーSAMさんの半生と考え方

目次

はじめに 60歳のいまが一番、心も体も自分史上最高

序章 いつまでも「自分史上最高」でいるために
ダンスとジェロントロジーの思わぬつながり
ポジティブに年をとるための学問
実践のカギは「ブルーゾーン」にある
モチベーションは実践から生まれる

第1部 実践編ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第1章 運動
運動漬けの毎日
[STEP1]意識を変える
悩むより筋トレ
休むよりも運動
気づいたときが始めどき
20代の動きを理想にしない
[STEP2]習慣を変える
姿勢こそトレーニング
日々の動きを変える
筋トレにノルマはいらない
無酸素運動と有酸素運動
ストレッチと柔軟運動
継続のコツは無理をしないこと
「STEP3]股関節を鍛える
すべては股関節で決まる
日常生活でも股関節を意識する
覚えておきたい3つの股関節トレーニング
運動のポイント

第2章 食事
バランス命の食生活
体の声を聴く
ブルーゾーンの食事法
ダイエットと健康
つらい食事制限はもうやめた
食事のポイント

第3章 睡眠
5時50分に起きる毎日
睡眠が命を救う
陽の光が眠りの質を高める
「7時間睡眠」の呪縛にとらわれない
睡眠のポイント

第4章 コミュニティ
コミュニティが寿命を延ばす
つながりから生まれたダレデモダンス
ダンスと医学がつながる瞬間
技術革新とコミュニティ
会話が脳を活性化する
否定しない会話術
習いごとのすすめ
趣味を大切にする
つながりと好奇心
複数のコミュニティに参加する
コミュニティのポイント

第2部 知識編ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第5章 ジェロントロジーの哲学
理解して受け入れる
年をとること、創造すること
自信が美しさをつくる

第6章 人間が年をとる理由
生き物としての限界に迫る「生物学的セオリー」
①生活代謝説:酸素代謝が速いほど寿命が短くなる
②体細胞突然変異説:誤ってコピーされたDNAが蓄積する
③フリーラジカル説:体内の分子レベルの損傷が蓄積する
④カロリー制限説:カロリー制限で寿命が延びる
環境と行動のつながりを探る「社会学的セオリー」
「コホート」ごとに考える
社会情緒選択説: 残された人生の長さで意欲が変化する
心も年をとる理由を解き明かす「心理学的セオリー」
なぜ「思い出せない」のか?
危機に瀕してストレスに強くなる
ストレスの対処法を身に付ける
「かわいそう」という固定観念

第7章 ジェロントロジーで社会を見る
超高齢社会も悪くない
定年を超えていく
働くこと、年をとること、生きること

おわりに 参考文献

立ち読みができる紹介記事

編集者日記「~母にもらった企画のヒント~」

私的読後感

人類は踊る

 人は太古から踊ってきたのです。ダンスの根源はどこにあるのか、その歴史はどうなのか、全体像を見通すことは容易ではありません。それほど、人類は踊ってきました。それはたぶん、言語、文字よりも前から、私たちの祖先は踊って気持ちを伝えていたのではないでしょうか。
 仲間と一緒に飛び跳ねるだけでも、それは楽しいダンスになります。ダンスの語源には緊張と緩和、はねる、飛ぶといった意味があるそうです。リズムに合わせて体を動かすことだとすれば、最初のリズムは、自分の体から生まれる呼吸であり心臓のビートかもしれません。あるいは歩くテンポかもしれません。
 ダンスには狩りや農耕、つまり生きて行くために必要なすべての動きが含まれています。喜怒哀楽と直結した動きです。
 生きている実感を味わう、言葉にならない気持ちを表現するとき、私たちは飛び、はねる。手を打ち鳴らし、体が動きます。
 村上春樹の小説『ダンス・ダンス・ダンス』では、生きることそのものがダンスとして捉えられています。ほの暗い洞窟に住んでいた原始の時代と直結している表現であり、生きていることの象徴でもあるのでしょう。
 椎名林檎は「デンス」と言い、自身の音楽創作の根源の一つとしています。まず踊るところから音楽が生まれるのです。体の中から生まれるリズムが曲になっていきます。
 私たちは歩いているときでも自然に、周囲の人たちの歩調に合わせていることがあります。無意識にリズムが同調していくのかもしれません。あるいはあえて、ほかの人とは違うリズムで歩こうとするのかもしれません。協調、共鳴、そして自我、自己主張へ。

まず実践する

 言葉にならない気持ちを表すダンスの第一人者であるSAMさん。2022年に還暦を迎えたそうですが、現役ダンサーとして続行中。伝統芸能である「能」にも挑戦するなど意欲も衰えていません。それでも、40代に入ってはじめて年齢を意識したと言うのです。本書は、現在SAMさんの心境と若さから老いへと、ある意味、次元が変わったときに、年齢とこれからの生き方について向き合い、そこで得た考えがまとめられています。
 実にサクサクっと、気持ちのいいリズムの本書は、難しいことはとりあえず置いて、やれるところから手を付けていこうと提案しています。
 それはディスコに魅せられ、ストリートダンスへのめり込んだ著者ならではの「まず実践」が反映されているのでしょう。
 実践編では、運動、食事、睡眠、コミュニティに絞り込んで、人生の後半に向けて実践したいことをテンポよく伝えています。ちょっとした動き、たとえば運動では股関節に焦点を当てるなど、日々、自身の体と向き合っている著者ならではのポイントが具体的に書かれています。私たちもいますぐ試すことができそうです。
 知識編は一転して落ち着いたパートとなっていて、著者が年齢を意識したときに出会った「ジェロントロジー(老齢学)」で学んだことを踏まえ、人間にとって長く生きることへの希望と現実への向き合い方を示していきます。著者の経験と専門家の研究成果を踏まえており、年を重ねていくことでぶつかる可能性のある壁を、知識のサポートによって乗り越えていこうと明るいメッセージになっています。

自分の成り立ちを振り返る

 本書のもう一つの特徴は、著者の半生がちりばめられていることでしょう。著者のいまの立ち位置、これまでの行動、出会い。若い頃から変わらない考え方、経験から生まれた考え方を垣間見ることができます。
 若い頃にニューヨークで直面した衝撃的な経験、父親や周囲の人たちから得た影響を含め、数々のエピソードによっていまがあるのです。それは著者だけではなく、読者も同じはず。こうした著者の言葉から触発されて、私たち読者としても自分のこれまでに受けた影響や経験を振り返る機会となるのではないでしょうか。
 自分のこととして考えたとき、自分はなにによっていまに至るのでしょう。自分はどんなパーツで出来ているのでしょう。考え方や価値の基準はどこから来たのでしょう。
 読者が社会に踏み出して間もない若い世代であっても、著者と同世代であっても、著者より上の世代であっても、それぞれに自分のこれまでを振り返りつつ、これからを考えるきっかけになるはずです。

得意なことや未知のことに挑戦する

 年を取ったらなにもできない、という時代は終わりました。隠居などという言葉はもはや死語。何歳になっても挑戦できるのです。得意なことからやるのもいいでしょう。ダンスが得意なら、ダンスからはじめる。音楽が得意なら音楽から。スポーツが得意ならスポーツから。ゲーム、囲碁、将棋、園芸、散歩でもいいかもしれません。あるいは、未知のことに挑戦するのもいいでしょう。行ったことのないところへ旅に出る、やったことのない分野に首を突っ込むことで、新しい自分を見つけることになるかもしれません。
 たいがいのことは10年で、かなりのレベルに到達できると言われています。60歳からはじめたら70歳で、70歳ではじめたら80歳で、きっとこれまでにない技術を手にしている可能性があるのです。また、萩本欽一さんの例もあります。コント55号で日本のお笑い世界を席巻し、その後も「欽ちゃん」として長くテレビに新しい番組を提供してきましたが、70代に入って大学へ行き勉強を始めます。理由は、50代、60代でやってもおもしろくないけど70代で大学へ行けばおもしろい、という独特の感覚。
 なにかを実践するところからはじめ、さらにほかのことにも好奇心を持ち、「年を取ったから」といった理由で縮こまるのではなく、むしろ年を取ったからこそ拡散していく気持ちで、あれこれと試して交流しながら広げていくこと。これからの超高齢化社会の生き方は、誰よりも上手に踊ることではなく、自分ならではのダンスを踊り続けること、動き続けることなのかもしれません。
 そのためのツールはITやAIといった先端技術のおかげで、大きく広がっています。スマホ、ネットを使いこなすかどうかは別として、その恩恵はさまざまな面から受けることができます。
 各国で進むジェロントロジーによって、高齢になることをいたずらに怖れる必要はなくなりました。年を取ったら引退してのんびり余生を過ごす、というだけはない選択肢があるのです。生涯現役もいい。これまでやりたくてもやれなかったことに挑戦するのもいい。上手でも下手でも、自分ならではの時間を追い求めることができるのです。
 そのためには、まず実践。なにかをすることでしょう。
 そして考え方を変えることです。何歳からでもいいので、自分の生き方に向き合って、それにふさわしい知識と技術を早いときから身近なものにしておけば、なおいいかもしれません。飽きない程度にいろいろやってみることです。
 新しいことをはじめるのに、年齢は関係ありません。そんな勇気をもらえる本でした。

(2022/06/10)

 

 

 

 

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