「定型約款」ってなに?

 約款は、たとえばネットでのサービスなどで、利用規約などと同じように「同意」を求められ、ろくに読みもせず「同意します」をクリックしてしまう、あの約款です。
 保険などの金融商品などでは約款は重要ですし、旅行などでも約款に同意することがあるでしょう。私たちがなにげなく利用している鉄道も、JRや民鉄などで、それぞれに「運送約款」を提示していますが、読んだことのある人はほとんどいないと思います。
 改札を抜けたら、約款を読んだものとみなす、みたいなことになっているんですよね。

 これほど重要な約款なのに、これまで法律では規定されていませんでした

 2017年、およそ120年ぶりに民法改正となり、その1つとして、「定型約款」の考えが取り入れられました。

 だいたい、約款は法的な定義がないので、「これが約款だ!」とは言いにくいものでした。契約は相対で口約束でも成立するものですが、契約書はそれを書面に記しておくいわば「証拠」としての書類。ただし契約については民法で定められているのに、契約書については法律では定められていないので、契約するお互いが了解していればどんな契約書でもOKなのです。

 ところが、多数の相手と同じ内容の契約をするときに、契約者の名前などが違うだけで、細かい部分はみな同じなとき、別に「約款」を作っておいて契約では、「それに同意」とだけしておけば便利だし、都合いいよね、ということから、約款は利用されてきました。

 今回の改正で、「定型約款」の項目が法制化されたため、今後、約款には、「これまで通り、各社で作っていた約款」と、民法の規定による「定型約款」の2種類になると考えられます。

 詳細は施行時(2020年予定)までに、条例などで規定されていくことでしょう。いまの段階では法律の条文のみなので、具体的な部分ははっきりしませんが、少なくとも条文からは、次のように考えることができます。

 こちらに法案があります。法務省内の法案。その「第五款 定型約款」(93ページ)をご覧ください。(リンク切れ)

 ここではいくつかのことが定義されています。簡単に整理します。

定型約款とは?

 ──ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。──

定型約款に合意したとみなすときは?

 ──定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
 定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。──

 つまり、「これは定型約款だよ」とされた約款については、合意したときだけではなく、相手に表示したときには、合意したとみなします。

 ただし、合意が認められない場合もあります。
 ──相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。──

約款の内容変更のとき

 そして、約款はかなりの頻度で変更になることがあります。
 そのときは、──合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。──とするやり方が、法律で定められました。
 この法律に則った定型約款は、個別の合意なく内容を変更できます。

 ただし、次の場合のみです。
 ──定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。──
 ──定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。──

 そのほかの変更の場合は、次のようにします。
 1、──その効力発生時期を定め(る)──
 2、──定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。──

 つまり、「いつからこうなりますよ」とはっきり明示して、周知させること。「変更しました、合意してね」はダメということです。「○月○日からこうなりますから、よく読んでね」とやるしかありません。

 わざわざ念を押すように──効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。──としていますので、この周知方法については、施行時までにより具体的な方法として提示されると思われます。

 とはいえ、かなり重要なことでも「官報に掲載」すればいいこともあるわけですから、約款の変更について商取引が不便になるほどの難しい条件をつけることはないだろうとは思いますけれども。

参考になる本と雑誌

『週刊エコノミスト 2017年07月11日号 ビジネスが変わる民法改正』

『平成29年大改正! 民法の全条文』(三省堂編修所編集)

『詳説 改正債権法』(債権法研究会著・編)

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