『「アタマのやわらかさ」の原理。 クリエイティブな人たちは実は編集している』 (松永光弘著)

『「アタマのやわらかさ」の原理。 クリエイティブな人たちは実は編集している』 (松永光弘著)
15年にわたって、クリエイティブをテーマとした書籍の企画・編集をしてきた著者による「アタマのやわらかさ」の原理。
4講の講義形式。
第1講 「アタマのやわらかさ」の基本形
第2講 「アタマのやわらかさ」は編集からはじまる
第3講 「アタマのやわらかさ」からわかる創造性の5つの誤解
第4講 「アタマのやわらかさ」で自分を変える
読者対象は、ビジネスに限らずあらゆる人だが、日常で「ひらめきが欲しい」「どうすればもっと創造的に考えられるのか」「どうすれば新しいものを生み出せるのか」と悩んでいる人には特に有効。クリエイター、編集者に限らず、ビジネス全般、さらに日常をもっと豊かに創造的に過ごしたいと願っている人たちにも「これならアタマをやわらかくできる!」と気づけるヒントに満ちている。
子どもの発想? 新しい価値? 常識を疑え? 違うよね!
日頃、「もうちょっと何かないのか?」とか「なんとか新しい角度を見つけられないか」とか「もっとわかりやすく、それでいて突き刺さるような」といったリクエストにさらされている人、または、自身でそれを感じている人にとって本書を読むと、かなりスッキリしてくることは間違いないでしょう。
多くのクリエイターと交流し、そしてクリエイティブな仕事をしてきた著者だからこそ、多数の創造的な成果を上げてきた人たちに共通するいわば「エッセンス」を知ることができたのです。
しかも、めちゃめちゃ優しい。著者は、『広告批評』創刊者であった天野祐吉氏(故人)からも教えを受けたとのことですが、その語り口は天野氏のようなピリッとした厳しさを感じさせることなく、きわめて飲み込みやすい言葉で綴られています。かといって、厳しさがゼロというわけではありません。クリエイティブにまつわる誤解をつぎつぎとぶった斬っていますから。
たとえば、「子どもの発想を取り戻そう」をバッサリ。「新しい価値を生みだそう」をバッサリ。「常識を疑え」をバッサリ。さらには「創造性で解決する」さえもバッサリ。おっと、それじゃ、クリエイティブな本としてどうなのかと思ってしまうかもしれませんが、こうしたバッサリをやる前に十分に読者は薫陶を受けているので、第3講まで辿り着いたときには、むしろ「そうだよね」「やっぱりね」となるはず。
編集ってなにをしてるの?
本書では、カバーに「編集者」と著者の肩書きを大きく添えています。ですから、編集の本でもある。編集者の書いた「編集とはなんだ」の本とも言えます。
そして、これもまた穏当に、だけど、決定的に素直に、その本質を解き明かしてくれるのです。
第2講にある『「組み合わせ」によって価値やメッセージを引き出す』。この見出しのみでは「???」となってしまうかもしれませんが、最初から読んでいけば、まったく苦もなく「そうだよね」となっていくでしょう。
ほかに、著者はすごく大事なことをさらっと指摘してくれます。これも厳しいといえば厳しい部分。
──以下、引用──
(略)創造的にアタマをつかうには、自分のなかにたくさんの知識があったほうがいい。
むしろそこが足りていなければ、そもそも創造的に考えることができないといってもいいぐらいです。
──引用終わり(P180)──
ああ、やっぱりそうか、と思われるでしょう?
そして知識の身につけ方をその後の短い部分で説いています。ここはそれだけで、別の1冊の本になるぐらいのことかもしれませんが、本書ではメインの話ではないこともあって、下手をすると(後半ということもあるし)読み飛ばしてしまう読者もいるかもしれないので、あらかじめ「ここ大事」と私は強調しておきたくなりました(老婆心というものだろうけど)。
第4講、大事です。試験に出ませんが、生きていく上で大事です。
目利きになろう
実は、先日、私は梅田悟司氏にお話をうかがう機会がありました。『「言葉にできる」は武器になる。』という著書についてお話を聞いていたところ、やはり「目利き」というキーワードが登場しました。
本書の第3講の『「創造性で解決する」の誤解』から『「目利き」は、その人自身』あたりまで、目利きとはなにか、どうすればなれるのか、といった話が出てきます。
さきほどの知識の件も含めて、このあたり、書きようによってはかなり厳しい内容だと思いますけども、とってもわかりやすく展開されていますので、素直に吸収できるのではないでしょうか。
たとえば、選択肢の中からどれか1つを選ぶことを迫られる。クイズ番組とかではなく、日頃、そういう場面に直面することは多いはずです。そして人生においてはその選択の結果をすべて自分で引き受けることになります。そんな重大なことなのに、私たちはけっこう気軽にチョイスしちゃっていることも多いでしょう。「あいつのせいだ」と言えればまだしもですが、たいがいは自分のせい。でも、よく考えると、ちゃんと知識を得ていたわけでもなく、まして目利きでもなかった段階での選択ですから、それはもうイチかバチかになっちゃうわけです。
私はもういまさら遅いですが、これからいっぱい将来のある人たちこそ、このあたりしっかり考えてみてはいかがでしょうか(それがまさに老婆心だ)。
読めばスッキリ。明日から爽やかな思考へ切り替えていくことができる素敵な本と言いたいところですが、誤解を招きそうなので、しっかり役に立つエッセンスに満ちた気づき満載の本でした。
著者のnoteも『教養として知っておきたい「編集」の基本』の連載など楽しくて役に立ちます。@「編集のつかいかた」
『「アタマのやわらかさ」の原理。 クリエイティブな人たちは実は編集している』 (松永光弘著)
参考になる本
本書の参考文献からいくつかピックアップしました。
『ヒトはなぜ笑うのか』 ちょっとお高いですが、その分、笑いも大きいと定評のある本。
『創造性とは何か』 基本書の1つですね。KJ法は知っておいて損はないでしょう。
『アイデアのつくり方』 これも定番の本。「不朽の名作」とまで言われているのですから……。
『偶然の科学』 歯ごたえのありそうな本。私もさっそく読みます。
『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』 これは参考文献にはありませんでしたが、装丁を手がけたgood design company代表・水野学氏の話題の著書。
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