アイディア観を共有する『ささるアイディア。:なぜ彼らは「新しい答え」を思いつけるのか』(松永光弘編集)

Man Head Silhouette To Dye Dirt  - geralt / Pixabay

ささるアイディア。:なぜ彼らは「新しい答え」を思いつけるのか
松永光弘(編集)

概要

時代が変われば、アイディアの考えかたも変わる。
ビジネスで、ものづくりで、まちづくりで、いま注目の15人のクリエイターたちが語る「アイディアのつくりかた」。
(書籍紹介より)

著者等紹介

松永光弘[マツナガミツヒロ]
編集家。1971年、大阪生まれ。「編集を世の中に生かす」をテーマに、出版だけでなく、企業のブランディングやコミュニケーション、サービス開発、教育事業、地域創生など、さまざまなシーンで「人、モノ、コトの編集」に取り組む編集家。ロボットベンチャーをはじめとした企業のアドバイザーもつとめており、顧問編集者の先駆的存在として知られる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) 著書に『「アタマのやわらかさ」の原理。クリエイティブな人たちは実は編集している』ほか。

参加クリエイター

水野学(グッドデザインカンパニー
川村真司(Whatever
岩佐十良(「自遊人」編集長)
鳥羽周作(sio
龍崎翔子(L&Gグローバルビジネス
藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所
伊藤直樹(PARTY
齋藤精一(パノラマティクス
三浦崇宏(GO
篠原誠(篠原誠事務所
川田十夢(AR三兄弟
明石ガクト(ONEMEDIA
佐藤尚之(ファンベースカンパニー
佐渡島庸平(コルク
柳澤大輔(面白法人カヤック

目次

はじめに アイディア観をもつということ(松永光弘)

第1章 アイディアの「意志」
子どもで想像して、おとなで創造する。(水野学)
いいアイディアは、やっぱりシンプル。(川村真司)
本質に立ち返って自問自答する。(岩佐十良)

第2章 アイディアの「経験」
「気持ちいい」で体験を最大化する。(鳥羽周作)
問いかけのなかで生まれるもの。(龍崎翔子)
矛盾を魅力に変える。(藤本壮介)

第3章 アイディアの「論理」
創造はひとりの天才のものじゃない。(伊藤直樹)
社会の理想像に照らして考える。(齋藤精一)
変化と挑戦を提供する合理的な提案。(三浦崇宏)

第4章 アイディアの「姿勢」
アイディアの量で勝負する。(篠原誠)
ジャンルをまたいで解釈できる「ものさし」を見つけたい。(川田十夢)
結果を出しつづけるために必要なのは「文法」。(明石ガクト)

第5章 アイディアの「視点」
大切なのは、つねに俯瞰して考えること。(佐藤尚之)
「本当の欲」を解放してくれるもの。(佐渡島庸平)
人間にとって大事なことをあきらめない。(柳澤大輔)

おわりに(松永光弘)

感想

思いつきを結果につなげられるか?

 本書は、15名の第一線クリエイターたちへのインタビューだ。登場する人たちは、みな新しい「解」を求められている。そのための「問い」は用意されていることもあれば、自ら見つけなければならないこともある。問い→解決策の間には、さまざまな視点とアイディアが求められる。解決策を見つけたとしても、それを実現するためにはさらに多くの視点とアイディアが必要になる。そのために、どのように考え、行動しているのか。それを編集者の松永氏が聞き出す。
 そこには楽しさと同時に、厳しさもあり、厳しさの質もそれぞれに違う。多彩なジャンルの第一人者が登場するので、アプローチや行動もさまざまで刺激的だ。それでいて、全体を通して見えてくる共通項も読者はきっと発見できるだろうし、それを自分にあてはめてみることも可能だろう。それがいわば本書編集者の松永氏が「はじめに」で強調している「アイディア観」なのだろう。
 本書のよい点は「アイディアのハウツー」ではないこと。それぞれが考え、実行していることをつまびらかにしているが、「こうやればアイディアは生まれる」「アイディアを実現できる」わけではない。むしろ、アイディアを生むための環境、実現するための条件やプロセスも明らかになるので、私たちは、いいアイディアを生み出しそれを実現するための方法を、自分たちで見つけ出すことが重要だと理解できる。些細な思いつきのように思えるアイディアを、しっかりと実現させるためには明解な理由があることを知る。こうしたアイディア観を持ち、なおかつ共有することが、「ささるアイディア」を具体化する道となる。

つい思う「なにかいいアイディアはないか?」

 自分でもふと思うし、会議などでも発せられがちなセリフだろう。
「なにかいいアイディアはないか?」
 しかし、こうした問いでいいアイディアが出ることは少ない。いいアイディアが出たとしても花開き実を結ぶことは少ない。
 それはなぜだろう。
 それはアイディアが出ないからではなく、アイディアが悪いからでもない。本書を読むとそれがはっきりする。
 アイディアを求めておきながら、アイディアをきちんと育てる仕組みを持っていないからだ。
 本書に登場する人たちは、みな、なにかを解決するために常にアイディアを求めている。新しいなにかを生み出す。これまでにない解決方法を見出す。ほかの人がうまくいかなかったことを、なんとか軌道に乗せるために苦心する……。
 いいアイディアを生み出すための工夫はもちろんだが、そのアイディアを育てるための仕組みそのものを持っている。
「なにかいいアイディアはないか?」とふと口にするとき、多くの場合、アイディアをすくい上げ、選別し、評価し、具体化していく仕組みまでは見通せていない。そのため、本当はいいアイディアだったかもしれなくても、活かせないままに終わる。「単なる思いつきじゃないか」と批判されるだけで終わる。思いつきを批判していたら、アイディアはいつまでも得られないのに。
 まして、ただのアイディアでは目的に到達する確率が低い。目的を達成するアイディアを「ささるアイディア」と考えるとき、そのアイディアには最初から「ささる」ことが求められている。ささるための確率を上げるためには、アイディアを出すところから、それを選び抜き、成長させていくプロセスまで考えなくてはならない。考えるだけではなく、実行していくための人・チームが必要だ。
 それを生み出すために、アイディア観を持ち、時代の変化や要求の変化に合わせてそれをチューニングしていき、しかも共有できるようにしておくことに力を注ぐ。

ゴールが違えばアプローチも違う

 本書に登場する人たちは、それぞれ目的が違う。ゴールが違うのでアプローチも違う。アイデアを出す部分で共通点は多いものの、それを選別したり発展させていく段階で、それぞれに大きな違いが生まれてくる。その違いはとても大事な気がする。
 たとえば、創造は一人でするのではなくチームで行う、まったく新しいものを生み出すのではなく上書きとして新しいものにしていく、といった考えを共有していくことで、思いついたアイディアがそのあとどういうプロセスを経るか少し見えてくる。それに合わせた発想をするようになっていく。
 アイディアは常に求められるのだが、それは「解」ではなく、新しい視点であったりいままでと少し違う概念を持ち込むことでもある。さまざまなアイディアから、ゴールにふさわしい選択をする、具体的に発展させる行程を経て結果につながる。この本に登場する人たちからすれば「なにかアイデアはないか」といった発言は、敗北宣言に聞えるかもしれない。アイデアはあったはずだ。誰もそれを育てなかった。ささるかどうかといった以前の問題だ。
「ささる」も「アイディア」も人によってその意味は違う。それを生み出すための目的も違う。だから一般的に「ささる」ものはないし、一般化できる「アイディア」もない。すべては特殊なところからはじまり特別な目的のために、プロセスのそれぞれの段階で共有されていく。いわばアイディアのバトンがつながる。その全体をコーディネートできなければ、ささるアイディアは生まれない。

メモ

 Kindle版を読んだ。いくつもハイライトでいわばマーカーで残した言葉がある。その中からいくつかを引用するが、これはあくまで自分用のメモである。なお、目次をご覧になるとわかるように、本書では見出しにズバリと要点が凝縮されており、それだけでも示唆に富んでいる。※電子書籍ではページ数や行数が示せないので章と発言者名を記した。

「アイディアを導き出すのはセンス」(第1章 子どもで想像して、おとなで創造する──水野学)
「『ラフスケッチひとつと説明1行』でちゃんとわかるものになっていること(第1章 いいアイディアは、やっぱりシンプル──川村真司)
「劣化コピーがはびこってもいます」(第1章 本質に立ち返って自問自答する──岩佐十良)
「アイデンティティを言葉ではなく、イメージでつかんでおくこと」(第1章 本質に立ち返って自問自答する──岩佐十良)
「ベストの提案を本気でめざすなら、そこに人格を反映させたほうがユニークで魅力的なものになる」(第2章 問いかけのなかで生まれるもの──龍崎翔子)
「いまの時代にいい制作物とされているもののほとんどは上書きなんです」(第3章 創造はひとりの天才のものじゃない──伊藤直樹)
「違和感からはじまります」(第3章 社会の理想像に照らして考える──齋藤精一)
「コンセプトにとって可能性とリアリティはすごく大事」(第3章 変化と挑戦を提供する合理的な提案──三浦崇宏)
「自由に考えようと思っているとなかなか浮かばないのですが、足かせをつけると思い浮かぶ」(第4章 アイディアの量で勝負する──篠原誠)
「ぼくは好きなものを見つけると、時間を忘れてずっと見ています」(第4章 ジャンルをまたいで解釈できる「ものさし」を見つけたい──川田十夢)
「売り上げの大半は少数のファンによって支えられている」(第5章 大切なのは、つねに俯瞰して考えること──佐藤尚之)
「課題の発見から取り組まなくてはいけないことが増えています」(第5章 人間にとって大事なことをあきらめない──柳澤大輔)
「知性をはたらかせるだけでは、人にやさしいものにはなりません」(おわりに──松永光弘)
「アイディアの向こう側には人がいる。アイディアとは、その人を幸せにするものであり、アイディアを考えるとは、人の幸せを願うこと」(おわりに──松永光弘)

●こちらには、アイディアを生み出す部分にフォーカスしたとても簡潔でわかりやすい紹介がある。
 日経ビジネス「『ささるアイディア。』~成熟社会における発想法を探る」(楠木建 一橋大学大学院教授)

参考になる本

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ますもと・てつろう

投稿者プロフィール

「かきっと!」の編集長です。記事もいろいろ書いています。
業界紙・誌(物流、金融経済、人事マネジメント)、ビジネス誌、ビジネス書など幅広く編集・執筆をしてきました。
ペットケアアドバイザー(愛玩動物管理飼養士二級、2005年度)
行政書士試験 合格(2009年度)

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